2025年度 神奈川県公立高校入試 中学校による恣意的な制限をなくするために ~3回目の県教委訪問を終えて~
2023年12月22日、ステップは神奈川県教育委員会に対し、
「公立高校入試の出願および志願変更について、中学校側が生徒の手続き日程を恣意的に制限している」現状があるとして、申し入れを行いました。
その後、2024年度公立高校入試を挟み、2024年7月1日に2025年度入試の募集案内等が神奈川県から発表されました。
それを受けてステップでは、7月16日に改めて神奈川県教育委員会を訪問し、再度の申し入れを行いました。
本稿では、中学校における各種制約の実例、2025年度入試の変更点、教育委員会担当者の回答等をまとめました。
神奈川県の公立高校入試について
まず神奈川県の公立高校入試について、簡単に確認しましょう。
今春に行われた2024年度入試からインターネット出願が導入され、入試本番と入学手続き以外は、原則としてWEB上で完結するようになりました。
また、1月の出願後、1回に限り志願変更が認められています。
この志願変更は、ギリギリまで自分の合格可能性を見極めたうえで受験校を決めることができるため、特に合否ボーダー上の生徒にとっては非常に有意義な制度です。
そのため、志願変更の決断については、直前まで熟考されるご家庭が多くあります。
志願変更データ(2024年度)
・出願倍率の発表:1月31日(水)夜
・志願変更期間:2月5日(月)~7日(水)
・志願変更手続きを行った人数:3,698名(神奈川県発表)
なお、出願も志願変更も、生徒が申請した内容について、締切までに中学校長が「承認」する必要があります。
2024年度入試では生徒の申請締切と、校長の承認締切が同日同時刻となっていました。
中学校による制約とは? ~具体例と背景~
昨年度の具体例
各中学校で中3生への進路指導が本格化する秋以降、受験生の保護者の方から様々な相談をいただきます。
その中には中学校の指導スタンスに関するものも多く、例えば、
「出願期間は1週間もあるのに、初日に必ず手続きするようにと言われた」
「中学校が志願変更をしないよう“圧”をかけてくる」
「先生から、志願変更は初日しか受け付けないと言われた」
「志願変更は前の週までに中学校に伝えておかないと認めてもらえない」
といった、出願や志願変更に対して中学校が何らかの制約を設けているという相談です。
昨年秋以降、ステップに寄せられた代表的な事例をいくつか紹介します。
横浜市立 H中学校
出願校は1月9日(火)までに決めて学校に用紙を提出するように言われた。
※出願は1月24日(水)~31日(水)ですので、半月前に出願校決定を強いられています。
茅ヶ崎市立 E中学校
出願校を1月10日(水)までに用紙に書いて提出することになっている。志願変更は初日しか受け付けないと言われた。
※志願変更は3日間ありますが、2日目・3日目の申請を拒否しています。
横浜市立 K中学校
出願は初日か2日目に。志願変更は2月2日(金)までに中学校に相談し、2月5日(月)までに三者面談を実施する。
※志願変更期間前に事実上の決定を強いています。そのため志願変更直前の週末に家族で相談することもできません。
横浜市立 I中学校
「今年はネット出願で手間がかかるから志願変更はできる限りやめてほしい、もしするなら全員初日にしなさい」と言われた。
※前年と比べて担任の先生が「手間」になるのは、システム上で「許可」を押すこと、変更先の高校名が正しいか「確認」するだけです。そもそも教員都合の発言であり、不適切です。
また、この学校では「最終日だと志願変更できないかもしれないよ」「志願変更する人は少ないよ」などの発言も確認されており、志願変更にネガティブな印象を広めようとしている可能性が感じられます。
※2024年1月4日公開の記事では、上記を含め、より多くの事例を紹介しています。
その他、先生が「倍率を見て志願変更を考える生徒は落ちればいい。直前になって志願先を変えた人で良い結果になった人を見たことがない」(小田原市)、「俺たちが面倒くさいから(手続きを)なるべく初日に済ませるように」(茅ヶ崎市)とおっしゃっていたという話も聞いています。
このように、県が公式に発表している日程を、中学校が独自の判断で事実上変更することが相当数の中学校で行われており、
総じて「手続きを早くさせたい」「志願変更はさせたくない」という印象を受けます。
これは受験生にとっては大きな問題です。
なぜ制約が問題になるのか
1月から2月初めには、入試前の最終的な模試が各塾で実施されます。また、1月には参加者の多い業者模試の最終回もあります。それらの結果を見て、出願校を決めたり、志願変更をするかしないかを決める生徒もいます。
つまり、受験校の決断を前倒しさせることは、十分なデータに基づく決定を阻害することにつながります。
中学校の都合のために、生徒やご家庭の「熟考する時間」が奪われるのは、あってはならないことです。
そして、受験校の「決断」の締切が中学校によって異なることは、入試に向けて同じように準備する機会が与えられていないことになり、著しく公平性を欠くと言えます。
なぜ制約が生まれるのか
こうした中学校による各種制約はなぜ生まれるのでしょうか。
まず前提としてあるのは、「全員がミスなく出願や志願変更を終えてほしい」という思いです。たしかに締切直前に大量の手続きがあれば、中学校のチェックミスなどが起きる可能性も否定できません。
ただ、「受験校に迷いのない」生徒も多くいます。そうした生徒は何も言わなくても早めに手続きをするでしょうし、「もう迷いのない人は早めに手続きをしてね」と呼びかけるのは問題ないでしょう。
全員一律に縛ろうとすることで、受験校に悩む生徒をさらに追い込むことになるわけです。
そして出願も志願変更も、生徒の申請締切と校長の承認締切が同じであるため、「締切数分前など直前に申請手続きをされたら困る」という側面があります。
この点に関しては、「生徒の手続き締切時間」と「校長の承認締切時間」を分けて設定することをステップは提案していました。
また、「中学校から志願先高校への調査書の提出期間」が2月5日(月)~8日(木)でした(提出方法は郵送または持参)。
この期間に、中学校は全生徒の調査書を、それぞれの出願校に確実に提出しなければなりません。その中学校からの受験生がいるすべての高校に持参するのは難しいでしょうから、郵送が現実的です。
志願変更者がいた場合はその生徒の調査書の送り先を変更しないとなりませんし、志願変更は7日(水)正午締切で、調査書提出は8日(木)締切と、この間の日程がタイトなため、中学校としては志願変更を「なるべく早くさせたい」となります。
これらは中学校側の事務作業の都合によるものですので、生徒の権利を制限する理由にならないのは言うまでもありませんが、中学校側の緊張度を必要以上に高め、生徒への圧力につながった可能性もありますので、スケジュールそのものにも改善の余地があると、私たちは提案していました。
ステップは2023年12月22日(金)に神奈川県教育委員会に対し、上記のような現状を伝えるとともに、そういう実状を把握し改善していただくよう、申し入れと提案を行いました。
教育委員会の担当者の方からは、
「(入試に向けたスケジュールについて)中学校側からは事前に丁寧に説明してご理解いただいた上で、『このように進めていきます。でもどうしてもというときには個別に対応させていただきます』という、そこに尽きるのかなと思います。一人ひとりにあった教育的ニーズを届けるということで、一人ひとりに対応していくということに尽きる」
ということで、一括りに縛るのではなく、個々の生徒・ご家庭の思いをきちんとくみ取って対応すべきとの見解をうかがいました。
2025年度入試における変更点
2025年度入試について、2024年5月2日にスケジュールが、7月1日に募集案内と実施要領が発表され、大きな変更点が2点ありました。
①出願と志願変更における「中学校長承認期間」の新設
前述の通り、2024年度は生徒の申請締切と校長の承認締切が同じでした。
新たに設けられた「中学校長承認期間」は、生徒締切の翌日までとなっており、生徒も校長も安心して期間最終日を迎えられるようになりました。
②中学校から高校への調査書提出期間の延長
前項でも触れましたが、2024年度までは志願変更締切日の翌日が調査書提出の締切と、中学校にとってはタイトな日程になっていました。
それが2025年度では、生徒の志願変更締切が2月6日(木)、中学校長の承認締切が2月7日(金)に対し、調査書提出の締切が2月12日(水)と、中学校にとって余裕のあるスケジュールに変更されています。
この2つの変更はステップが提案してきたことでもあり、ポジティブな内容と言えます。
特に中学校の処理は、これまでに比べ、かなり余裕ができました。
つまり、タイトな締切を理由に、締切より早く申請するよう、生徒に迫る必要がなくなるわけです。
その意味では、中学校に無理な処理は求めないという県教委の意志とも受け取れますし、その結果、受験生やご家庭にとってもプラスになるものと思われます。
ステップからの質問と教育委員会の回答
この2025年度入試の変更点を踏まえ、ステップは2024年度のような進路指導が繰り返されないようにとの思いから、2024年7月16日に改めて神奈川県教育委員会を訪問しました。
対応してくださったのは、前回と同じ教育局支援部子ども教育支援課教育指導グループの3名の方々です。
ここではその際のやり取りを一部紹介いたします。
今回の入試手続きスケジュールの変更の主旨を教えていただけますか?
考え方としては、できるだけ受験生にとって、ご家庭も含めてですけれども、ご負担をおかけしないようにということです。
(入試スケジュールについて)中学校側、高校側、双方の意見を、しっかり合意形成した上で仕組みのほうは決めております。
出願や志願変更の申請期間中は、生徒・ご家庭はいつでも申請できる、つまり申請は初日でも最終日でも問題ないということですよね?
はい。
中学校が期間を限定してくるような指導をすることについて、教育委員会としては中学校に対して呼びかけ等をされているのでしょうか?
一般論として適切な進路指導をしてくださいということは、通知等で出しているというよりは、各種会議等でも連絡のほうはさせていただいています。
(スケジュール変更について) こういう問題が起こっていたから、こういう見直しをしたという、見直しの意味とか主旨は中学校現場には届いているのでしょうか?
届いていると思っておりますが、仕組みを作っているのは高校教育課になるので、高校教育課のほうからそれぞれ関係機関のほうに連絡をして、代表の校長先生等を通じて伝達をされているというふうには認識しております。
生徒や保護者の方のためにという主旨は共有されているはずということですね?
そうですね。やっぱりそこが一番大事なところではないかなと思うので。
申請期間が決まっている中で、中学校が早めに締切を切ってしまうことは適切ではないと思いますが…。
私どもとしてはちゃんと決められた期間で対応してくださいというのが立ち位置です。
このように、教育委員会としても、生徒やご家庭が(物理的にも心理的にも)より負担なく受験に臨めるように、という思いで制度を改善なさっている模様です。実際、今回の変更はそれに沿ったものだと私たちも受け止めています。
結論的にまとめてみれば、出願や志願変更は「定められた期間内であればいつでも申請できる」ということです。
中学校の対応で困ることがあれば…
ここまで述べてきた通り、出願や志願変更の申請期間を中学校が恣意的に制限することは、受験生の公平性を著しく損なうものであり、そこに正当な理由はありません。
そして、中学校側が日程的に苦慮する可能性のある要素も改善されました。
ですから、2024年度のように中学校が各種制約を設けることはないと、信じたいところです。
しかしながら、万一、中学校の対応で前年度のような恣意的な制約があった場合、受験生・保護者はどうすればいいのでしょうか。
まず保護者の方が中学校に直接改善をお願いできそうなら、担任や進路担当の先生に相談するのがよいと思います。
もしそれが難しそうであれば、市町村の教育委員会に具体的に伝えるようにしましょう。
実際、昨年度、入試手続きに関する制約について教育委員会に相談し、翌日に中学校と話したところ、柔軟な対応に変わったということもありました。
なお、県の教育委員会に問い合わせる場合は、中学校を所管しているのは子ども教育支援課です。
県教委の方は、「進路指導に限らず、こちら(県教委)のほうに何かご意見をいただいた場合には、市町村教育委員会を通して事実確認し、不適切なことがあれば対応するように助言する」とおっしゃっていましたので、市町村教委と話してもどうにもならない場合は県教委を頼るのがよいでしょう。
最後に(現中3生とその保護者の皆さんへ)
中学3年生の生徒、保護者の皆さん、入試のスケジュールは「募集案内」(生徒・保護者向け)や「実施要領」(中学校・高校向け)で公式に定められています。そして皆が同じルールで入試に臨む権利があります。
今回、教育委員会を訪問し、改めて確認したように、募集案内で定められている期間内ならいつでも申請することができます。
中学3年生は、来年の1月・2月、出願や志願変更、そして入試本番を迎えます。
その時期に、中学校から早めの決断を求められても、もし受験校に迷いがあるなら、決断を急ぐ必要はありません。
「悩んでいるため家族でも話し合って〇日に決めたいので、それまでお待ちください」とはっきり伝えましょう。
県が定めている期間内であれば何ら問題はなく、当然のことなのです。大事な決断に際し、焦ってもプラスになることはありません。県教委の方も、「生徒・保護者のために」「一人ひとりを大切に」ということを、前回訪問した際も、今回もおっしゃっていました。
それに、中学校の先生方も、皆さんが真剣に悩んで受験校を決め、全力で入試に臨むことを望んでいらっしゃるはずです。
2025年度入試に向けては、前年度のスケジュール的な課題は解消されました。
中学校が出願・志願変更の期間などを恣意的に制限する余地はありません。在籍中学校の対応一つで、受験生が不利益を被ることがないよう願っています。
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