【コラム】志願変更への一部中学校での不適切な対応を考える <令和5年度神奈川県公立高校入試>

はじめに-志願変更とは

 神奈川県の公立高校入試では、出願後、1回に限り志願変更が認められています。
 2023年度公立高校入試の場合、2月1日(水)夜に出願倍率が発表され、2月6日(月)~8日(水)が志願変更期間でした。教育委員会の発表によると、この3日間で3,950名が志願変更の手続きを行いました。前年の志願変更者は3,197名であり、全体で753名増加しており、志願変更をする生徒が増えている現状がよく分かります。
 コロナ禍において、中学校への願書提出が早まり(コロナの影響で願書は個別提出ではなく、中学校から各高校へ一括して提出するのがメインになりました)、出願校を検討する時間が十分にとれなくなっていることも背景にあると思われます。

 この志願変更は、ギリギリまで自分の得点力を見極めたうえで受験校を決めることができるため、特に合否ボーダー上の生徒にとっては非常に有意義な制度です。そのため、志願変更の決断については、直前まで熟考するご家庭が多くなっています。
 また、志願変更期間中、各高校では出願者の増減を毎日発表していますので、例えば2月6日(月)の動向を見て最終決断し、7日(火)(または8日(水))に志願変更をすることも珍しくありません。

中学校からの制約

 この時期、受験生の保護者の方から相談をいただく内容は様々ですが、受験校決定の相談以外で目立つのは、「中学校が志願変更をしないよう“圧”をかけてくる」「学校の先生から、志願変更は初日の6日(月)しか受け付けないと言われた」「志願変更は3日(金)までに中学校に伝えておかないと認めてくれない」といった、志願変更に対して中学校が何らかの制約を設けているという相談です。

 「志願変更をしないように」というのは論外ですが、中学校としては「変更前に三者面談をして意思確認をしたい」「初日に志願変更をしてほしい」という思いがあるようです。中学校の先生方のその思い自体は理解できなくはありませんが、前述の通り、出願倍率発表から志願変更までは、1週間しかありません。その短期間で家庭で熟考しなければならないのに、早めに中学校に伝えるとなれば、そのわずかな検討期間がさらに短くなることになり、受験生にとっては大きな問題です。お世話になっている中学校の先生に、志願変更の思いを伝えることは大切ですが、それを「数日前までに三者面談で」する必要はないはずです。
 また、志願変更は3日間のどの日でも受け付けないといけませんが、それを制限していると受け取られかねない言動があれば、受験生として公平に認められている権利を一方的に侵すことになります。

実際の例

 今回は、ステップの塾生のご家庭から寄せられた、中学校の対応例をご紹介します。
 なお、これらはご家庭から伝えられた内容ですので、一言一句、細部まで正確かどうかは確認できない部分もあります。しかし、そのようにご家庭や生徒本人が受け取られたのは事実であり、仮に正確でない部分があったとすれば、中学校からの伝達に問題があった可能性も検証する必要があると考えます。

中学校内容
横浜市立N中学校「志願変更は基本的に2月6日(月)のみ」と言われた。
横浜市立K中学校「2月3日(金)までに保護者が学校に出向いて志願変更の申込書を書かないと受理しない」「志願変更日は2月6日(月)とする」と言われた。
※一部のクラスでは後に上記すべて撤回されたとのこと。
横浜市立H中学校「志願変更は2月2日(木)までに申し出なければならない。それ以降は受け付けない」と言われた。
横浜市立T中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること。以降は受け付けない」「そもそも志願変更自体できるだけしないでほしい。今までその学校を目指して勉強してきたんだから突っ込みなさい」と言われた。
★模試の状況等から無理して「突っ込」むのではなく、志願変更を考える生徒が出るのは当然です。無謀な受験を強引にさせるようにも捉えられる発言と言えます。
横浜市立O中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること。以降は受け付けない」と言われた。
横浜市立H中学校「志願変更をしたいなら2月3日(金)までに言ってこないと対応しない」「志願変更は2月6日(月)しか認めない」と言われた。
※個別に要望を出した家庭には、それにそって対応。
横浜市立S中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること。以降は受け付けない」と言われた。
横浜市立N中学校「2月2日(木)までに志願変更願を取りに来ない生徒には変更願を渡さない」と言われた。
※中学校に抗議した家庭には、6日(月)以降も対応すると伝えられた。
横浜市立T中学校「2月3日(金)以降は志願変更に関することには応じない」と言われた。
※中学校に問い合わせたところ、「区内の中学校間の取り決めもあってそうしているが、6日(月)に申し出があっても拒否はしない」旨の返答があった。
横浜市立I中学校「志願変更したいなら2月1日(水)までに申し出るように」と担任に言われ、学年主任からは「3日(金)までに」と言われた。「志願変更はほとんどしないものだし、昨年した生徒は不合格だった」と先生がネガティブな話をしてくる。
横浜市立Y中学校「変更は2月3日(金)までに申し出ること、変更受付は6日(月)に行うこと」と言われた。
横浜市立E中学校「2月3日(金)までに中学校に言わないと志願変更の対応はしない」と言われた。
※個別に要望を出した生徒は、しぶしぶ認められた。
横浜市立T中学校「志願変更は2月6日(月)にすること」と言われた。
横浜市立M中学校「志願変更は2月6日(月)にすること」と言われた。
横浜市立K中学校志願変更希望者が2月3日(金)昼に集められて、「志願変更の申し出は今日まで」と言われた。
横浜市立K中学校「志願変更希望者は2月3日(金)までに申し出て、6日(月)に変更」と言われた。「7日(火)・8日(水)に変更すると合否に不利な扱いを受ける」と発言した先生も。
★「合否に不利な扱い」は事実ではなく、問題のある発言と言えます。
横浜市立T中学校「2月3日(金)までに申し出て、三者面談を実施したうえで志願変更を認める。そうでなければ認めない」「志願変更する場合は6日(月)にするように」と言われた。
横浜市立Y中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること」と言われた。
横浜市立S中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること」と言われた。
川崎市立I中学校「志願変更をしたいなら2月3日(金)までに言ってこないと対応しない」「志願変更は2月6日(月)しか認めない」と言われた。
※個別に要望を出した家庭には、それにそって対応。
川崎市立M中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出る。変更日は6日(月)のみ」と言われた。
川崎市立H中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出ること」と言われた。
川崎市立M中学校「志願変更は3日(金)までに申し出ること」「6日(月)の倍率をみてからの変更は聞かない」と言われた。2月3日(金)に「志願変更は今日中に言え。月曜日では遅いから」と言われたクラスも。
川崎市立M中学校「週明けに志願変更届の発行や押印に対応できない可能性があるため、2/3(金)までに志願変更を確定させて申し出ること」と言われた。
相模原市立S中学校「志願変更は2月6日(月)に必ずしてください」「志願変更願は、保護者に来てもらい面談を行った上でないと渡すことはできない」と言われ、「志願変更しないように」という圧を感じた。
※7日(火)の手続きを要望したご家庭はしぶしぶ認められた。
相模原市立Y中学校「志願変更をする場合は2月3日(金)までに中学校の先生と面談すること」と言われた。
相模原市立O中学校「志願変更をする場合は2月3日(金)までに中学校の先生と面談すること」と言われた。
相模原市立A中学校「2月3日(金)までに申し出ないと志願変更できない。そして6日(月)に学校で面談をしないといけない」と言われた。
相模原市立U中学校「志願変更希望者は2月2日(木)か3日(金)に申し出ること。それ以降は受けつけない」「手続きが面倒くさいから必ず3日までに言うように」と言われた。
※「3日までに言わないと相当怒られる」とのこと。
相模原市立O中学校「志願変更は2月3日(金)までに申し出たうえで三者面談を行う。面談を行うので金曜までに言わないと間に合わない」と言われた。
横須賀市立T中学校「2月3日(金)までに中学校と面談をし、印鑑を捺さないと変更できない」と言われた。
※個別に訴えてきた生徒や保護者には6日(月)にも面談を実施。
横須賀市立U中学校「志願変更を考えている場合、必ずこの日(2月3日)までに担任に申し出る」と記載されたお知らせが配布される。
※保護者の抗議を受け、6日(月)以降の申し出も可とするお知らせが改めて配布された。
鎌倉市立I中学校「2月3日(金)の午前11時までに申し出ること。それ以降は受け付けない」と言われた。
藤沢市立A中学校志願変更希望者は「2月3日(金)までに三者面談を」というお知らせが配布される。
藤沢市立H中学校「志願変更をしたいなら2月3日までに言ってこないと対応しない」と言われ、同内容のお知らせが配布された。
藤沢市立S中学校・「2月3日(金)までに申し出て、6日(月)朝に保護者と一緒に来ること」と言われた。
・「倍率を見て志願変更するなんてありえない」「倍率を見て変えるなんて何のために勉強してきたんだ」「以前倍率を見て志願変更をしようとした生徒に対して厳しく怒ったことがある」などと、『志願変更は悪いこと』というニュアンスで先生が伝える(複数の先生が発言)。
★志願変更のデメリットを伝えることは悪いことではありませんが、メリットを伝えることもなく、複数の先生が話していることで、結果的にネガティブキャンペーンとなっており、生徒の正常な判断を阻害しかねません。
藤沢市立D中学校「志願変更は2月6日(月)しか認めない」と言われた。
藤沢市立K中学校「2月3日(金)までに申し出ること」と言われた。
茅ヶ崎市立M中学校「志願変更は2月3日(金)午前中に必ず申し出るように」「志願変更をするなら6日(月)にみんな揃って行くように」と言われた。
※3日に午後から登校し志願変更を希望した生徒が先生からきつく怒られていたのが目撃されている。
茅ヶ崎市立E中学校「志願変更は2月6日(月)しか認めない」と言われた。
※個別に要望を出した生徒はしぶしぶ認められた。
茅ヶ崎市立T中学校「志願変更は2月6日(月)しか認めない」と言われた。
※個別に要望を出した生徒は嫌な顔をされながらも認められた。
小田原市立C中学校「志願変更は2月6日(月)に言われても間に合わない」と言われた。
※別のクラスでは「6日(月)・7日(火)でも対応する」と言われており、担任により対応が異なる。
小田原市立K中学校「2月6日(月)ならギリギリ間に合うが、火曜・水曜だと書類の準備ができないから無理」と言われた。
★何の書類のことを言っているか分かりませんが、志願変更願のことであれば、すべての中学校で受け付けできなくなってしまうことになりますし、理解し難い話です。
小田原市立I中学校「12月の面談で伝えた志望校を、出願時に変更した場合、志願変更を1回したものとし、2月6日(月)からの志願変更はできない」「2月3日(金)までに志願変更を決定し、保護者と面談する必要がある」「6日(月)中に志願変更の手続きを必ず終わらせること」と言われた。
★最初の発言は、受験生の権利を剥奪する発言になっています。
小田原市立J中学校「2月3日(金)までに志願変更するか、しないかを決定するように」と言われた。
海老名市立E中学校「2月3日(金)までに申し出てほしい」「できたら志願変更はしない方がよい」と言われた。
※上表の中学校名に重複はありません。

<特に問題のある対応例>

上記以外に、志願変更を申し出た生徒に対して、威圧的な対応や理不尽な対応をされたなどの報告もありました。
(以下のa、b、c、dは中学校名のイニシャルではありません。)

◆横浜市立a中学校

・2月2日(木)に志願変更を申し出たら、嫌な顔をされてすぐには認めてもらえなかった。
・担任に志願変更を申し出たら「嫌です」と言われた。

→この2例は同じ中学校での話です。この中学校では先生により申し出の締切が異なっているようでしたが、一部クラスは2月1日(水)締切で、1人目の生徒はそのクラスだった模様。ただ、この1日(水)というのは夜に出願倍率が発表される日です。つまり「出願倍率を見る前に志願変更を申し出るように」という先生がいらっしゃったわけで、これは「志願変更をするな」というのに等しく、非常に問題があります。また2人目の事例のように、先生が申し出を拒否するのも、あってはならない行為です。

横須賀市立b中学校

・志願変更の可能性を2月3日(金)に伝えたら「もう無理だから」と言われ取り合ってもらえなかった。

→この中学校では、「6日(月)までは大丈夫」と言われているクラスもあり、担任により対応が異なっていました。この先生が事前周知をどのようにされていたかは分かりませんが、クラスにより対応が大きく異なること、申し出を一方的に拒否することは、あるべき姿とは言えません。

小田原市立c中学校

・2月7日(火)に志願変更をしたいと申し出た生徒が、別室に連れていかれ、複数の先生から「校長先生が印鑑を押すって書いてあるよね。だから中学校に合わせてもらわないと困るんだよ」と言われた。

→この中学校では「志願変更に行くのは6日(月)」と告知していました。ただ、入試制度として7日(火)でも8日(水)でも構わないわけですから、当然、この告知に強制力は働きません。まして、別室で生徒1人に教師複数で威圧的に対応するのは不適切な行為です。

小田原市立d中学校

・手続きを2月7日(火)にしたいと申し出たところ、「それはあなたの都合です。校長先生は火曜日に出張に行くから難しい」と言われた。

→この中学校は前述とは別の学校。ここも志願変更に行く日は6日(月)としていました。入試制度で認められている日を「あなたの都合」としてしまうのは筋が通りません。また、校長印を要する入試手続きが定められている日に、校長先生が本当に出張を入れていたならば、それ自体が問題です。

考察

 すでにお分かりかと思いますが、制約を設けている中学校は、「志願変更期間の初日である2月6日(月)に志願変更手続きを終了させる」ことにこだわっています。そのため、そこから逆算して「3日(金)までに三者面談」となるわけです。

 それはなぜでしょうか。前述の通り、「事前に面談でしっかり話したい」「手続きの不備を見越して初日に手続きをさせたい」というのも確かにありますが、一部の先生の威圧的ともいえる、生徒本意とはいえない対応を見る限り、それだけとは思えません。また、「中学校での手続きに時間がかかる」という理由もありましたが、志願変更願は簡単に記入できる量であり(ただし保護者署名が必要 →資料1)、中学校は印鑑を押すだけです(志願変更手続きで時間がかかるのは、2つの高校に行かねばならないという移動時間がメインです)。

 ここで中学側の手続きを確認しましょう。すると、「中学から志願先高校への調査書の提出」が2月6日(月)~9日(木)となっています( →資料2)。つまり中学校側からすると、郵送で提出する場合、できるだけ6日(月)までに生徒の出願先を決定させ、7日(火)には発送したいということです。もし校長先生が「絶対に7日に発送できるように」と指示されたら、他の先生方は生徒へ「6日(月)までに」と強要せざるを得なくなります。もちろん、これは中学校側の事務作業の都合によるものですので、生徒の権利を制限する理由にはならないのは言うまでもありません。

 一方で、中学校側にもう少しの時間的猶予があれば、中学校による生徒への強引な対応が緩和される可能性もあります。必要なら書類提出の日程を調整する等、スケジュール自体が再検討されてもいいのではないでしょうか。

おわりに

 諸々の制約を口頭で伝えている中学校では、先生がかなり強い、断定的な言い方で伝えたところがありました。また志願変更についてネガティブな内容をひたすら伝えた先生もいました。

 進路通信などの配布物の実物を複数確認しましたが、「なるべく○日までに~してください」ではなく、「○日までに必ず~してください」と例外を許さない書き方をしている中学校もありました。

 そのような一方的な制約を設けている中学校も、生徒や保護者から強く要望されたり抗議されたりした場合にはしぶしぶ対応しているようですが、生徒や保護者がそうした行動をとらなかった場合は泣き寝入りしかありません。
 中学校側の作業日程がタイトなのも理解はできますが、隣接学区の中学校でも対応がまったく異なる場合もあり、在籍中学校によって生徒が不利益を被るのは適切なあり方ではありません。進路決定の考え方はご家庭により様々ですから、中学校の判断一つでそれが制限されることがないように願いたいものです。

 学習塾ステップでは、神奈川県の教育委員会に対して、上記のような実情を訴え、改善を求めてまいります。

 なお、多くの中学校では、生徒の気持ちを尊重した対応が行われていることを最後に付記しておきます。

*令和6年度(2024年度入試)における状況と、教育委員会への申し入れについてはこちらの記事をご覧ください。

◆資料1 志願変更願

◆資料2 「令和5年度神奈川県公立高等学校の入学者の募集及び選抜実施要領」より、出願時に中学校の校長が行う手続きについて